顎関節症(顎の痛み)について
顎関節症とは顎関節に発生する口を空けたときの疼痛、関節雑音、開口制限(口が空けにくい)を特徴とする症候群のことをいいます。
顎関節症の症状は一般に関節雑音や顎関節痛、開口障害が単独もしくは複数で同時か定期的に発生します。関節雑音は口を開け閉めした際にコキコキ鳴ったり、髪の毛をこすり合わせたようなシャリシャリといった音がします。
これらの症状の他に肩こりや耳鳴り、疲労倦怠感といった全身症状を伴うこともあります。
顎関節症は20代から30代の女性に好発します。大きなあくび、笑いといった日常動作、歌唱、寝違え、頬杖などでも引き起こされる場合があります。
顎関節症を引き起こす因子としては
- 急激なストレス
- 歯ぎしりや食いしばり
- 頬杖
- うつ伏せ寝
- 姿勢不良
- 事故などの外傷
- 硬いものの摂取
などが挙げられます。
ですから、スルメやビーフジャーキー・フランスパンンなどをよく食べたり、大開口でかぶりついたり、管楽器の演奏、バイオリンの演奏、前傾、パソコンの作業などをする人は要注意です。また片方の歯で噛み続けるくせのある方も注意が必要です。
神経質、几帳面、すべてに一生懸命に対応するといった性格の方も顎関節症になりやすい傾向があります。
顎関節症を悪化させることで、かみ合わせの異常、姿勢異常、うつ傾向、不安症、睡眠障害などが続発することもあります。
顎関節症の分類
一言に顎関節症といっても、いくつかの原因があり、次のように分類されます。
Ⅰ型
咀嚼筋障害、筋肉のスパズム(異常緊張)、筋炎などが原因で起こる顎の痛み。顎を動かした時の痛み(筋肉痛のような鈍い痛み)を起こします。
Ⅱ型
関節包、関節靭帯、関節円板の伸展や捻挫による病変を主な徴候とします。顎関節部の運動痛と圧痛をお強く生じます。また髪の毛をこすり合わせたようなシャリシャリとした関節雑音を生じます。
Ⅲ型
関節円板の転位や変性、穿孔(穴が開く)線維化などを主病変とします。口をあけた際の圧痛は強くありませんが、クリック音(コリコリと鳴る)が著明となります。関節円板の位置によっては口が開かなくなります。
Ⅳ型
関節軟骨の破壊などで起こります。
Ⅴ型
原因が不明なものです。
この中でⅠ型、Ⅱ型はとくにストレスなどの心理的な要素が大きく関わっているといわれています。
顎関節症の一般的な治療
顎関節症の治療は痛みどめなどの薬物療法・咬合改善・スプリント・ホットパックなどの物理療法などが行われます。
顎関節症の予防法としてはストレスの管理、食いしばらずにリラックスする。食いしばりのある人は軽く上下の唇を触れさせ歯を合わせない、頬の筋肉を和らげるといったことが有効です。
顎関節症の鍼灸治療
顎関節症の鍼灸治療は西洋医学的アプローチと東洋医学的アプローチを用いて行います。
西洋医学的アプローチ
西洋医学的なアプローチとしては局所治療を行います。咀嚼筋の筋緊張の緩和を目的に鍼灸治療を行います。
下関(げかん):咬筋、外側翼突筋
客主人(きゃくしゅじん):側頭筋肉
などのツボを中心に筋緊張の強い筋肉に刺鍼することで筋緊張を緩和させます。
またⅢ型の顎関節症の場合には関節の消炎・鎮痛を目的として聴宮(ちょうきゅう)というツボに置鍼します。
顎関節の遠隔治療としては合谷(ごうこく)、手三里(てさんり)を用います。合谷・手三里は大腸経に属します。大腸は下の歯、下あごを主るといわれており、合谷・手三里は歯痛によく用いられます。
東洋医学的アプローチ
顎関節症によって頭痛などといった全身的な症状も出ることがあるので、東洋医学的な鍼灸治療により、全身の調整を行うことにより治癒が促進されると考えられます。
東洋医学では顎関節の運動痛は経筋病と考えられています。とくに顎関節には足陽明経筋(胃に関連)や手陽明経筋(大腸に関連)、手太陽経筋(小腸に関連)などが密接に関連しています。
消化・吸収と最も関連する胃・大腸・小腸と顎関節との関連が深いため、ストレスを受けると胃が痛みやすい、慢性的に便通異常を持っている、ストレスがあるとお腹が痛くなって下痢を催すといった症状を持つ人に顎関節の痛みを持つ人が多いようです。
とくに体調が悪い時や、ストレスが強くなると顎関節の痛みも強くなる傾向があるので、顎の痛みは、心身の持つ危険信号と考えられます。
治療するツボとしては胃・大腸・小腸などと関連が深い足三里(あしさんり)・内庭(ないてい)・合谷(ごうこく)・手三里(てさんり)・後谿(こうけい)といった経穴を中心に鍼灸治療を行います。
顎の痛みは食事や会話の楽しみを奪うだけでなく、放置すると不眠やうつ、自律神経失調症などの原因となることもありますので、治りの悪い方、心配な方は一度お気軽にご相談下さい。