耳鳴り・突発性難聴について
耳鳴は文字通り何もないのに耳の中で音がなっている状態です。
耳鳴りの音は患者さんによって様々あります。キーンやジーと高い音が聞こえたり、ワーンやブーンなどの低い音が聞こえることがあります。セミなどの虫の鳴き声に例える患者さんもいます。
日本では人口の10~15%の人が耳鳴りを自覚しているといわれています。健常者でも就寝時や極度の緊張した時などに耳鳴りを自覚することがあります。
その中でも人口の2~3%、およそ300万人の方が耳鳴りによって苦痛を感じていると推定されています。
有病率は年齢別では40歳代で30%、70歳代の45%と高齢になるにつれて増加傾向になります。
耳鳴りを引き起こす病気は?
耳鳴りは大きく分けると自覚的耳鳴りと他覚的耳鳴りに分けることができます。
他覚的耳鳴りは血管や関節の可動部などからだの一部で発生する雑音であることから、自分以外の人にも音が聞こえます。
一方、自覚的耳鳴りは耳鳴りの大半を占めます。
自覚的耳鳴りは外耳炎や中耳炎などの伝音難聴と突発性難聴やメニエール病、老人性難聴、騒音性難聴などの感音性難聴に分けられます。
この感音性難聴が耳鳴りの患者さんの90%にあたるといわれています。
感音性難聴の原因ははっきり解明されてはいませんが、ほとんどの耳鳴りはの機能の変調であると考えられています。急性内耳障害・老人性難聴・騒音性難聴などはその代表例とされています。
その他で、聴力検査で難聴を認めない例は無難聴性耳鳴りと呼ばれ、自律神経失調症やうつ病などで起こるといわれています。
耳鳴りの苦痛
耳鳴りは、頻度や程度によらず人によってはかなりの苦痛となります。耳鳴りに伴って不安や恐怖、嫌悪感、怒りなど様々な感情が交錯したり、最悪のケースでは耳鳴りを苦に自殺する場合もあります。耳鳴りのある人は抑うつ状態であることが多く、睡眠障害を持つ人の割合が多いということが報告されています。
耳鼻科では耳鳴りの苦痛の尺度として次のような問診票(THI-25)を用いて評価しています。
- 耳鳴りの為に物事に集中できない
- 耳鳴りの音が大きくて人の話が聞き取れない
- 耳鳴りに対して腹が立つ
- 耳鳴りのために混乱してしまう
- 耳鳴りのために絶望的な気持ちになる
- 耳鳴りについて多くの不満を訴えてしまう
- 夜眠る時に耳鳴りが妨げになる
- 耳鳴りから逃げられないかのように感じる
- 社会的活動が耳鳴りにより妨げられる
- 耳鳴りのために挫折を感じる
- 耳鳴りで自分はひどい病気であると感じる
- 耳鳴りのために日々の生活を楽しめない
- 耳鳴りが職場や家庭での仕事の妨げになる
- 耳鳴りのためにいらいらする
- 耳鳴りで読書ができない
- 耳鳴りのために気が動転する
- 耳鳴りで家族や友人との間にストレスを感じる
- 耳鳴りから意識をそらすのは難しいと感じる
- 自分一人で耳鳴りを管理するのは難しいと感じる
- 耳鳴りのために疲れを感じる
- 耳鳴りのために落ち込んでしまう
- 耳鳴りのために身体のことが心配になる
- 耳鳴りとこれ以上つきあっていけないと感じる
- ストレスがあると耳鳴りがひどくなる
- 耳鳴りのために不安な気持ちになる
各項目よくある(4点)、たまにある(2点)、ない(0点)とし重症度を決めます。50点以上で生活に支障が出ることが多いです。
耳鳴りの前兆
耳鳴りがする前には次のようなことが起こりやすくなります
- 肩こりや首こりがある
- 顎が痛む
- 耳が痛む
- 耳がつまる
- 短時間の一過性の耳鳴りが起こる
肩こりや首こりがある
耳鳴りの患者さんのほとんどに肩こりや首こりがみられます。これはもともと肩こりや首こり症か、耳鳴りが起こったことによって肩や首が凝るようになってしまったのはわかりませんが、耳鳴りの悪化因子はストレス、疲労などがあげられることから肩や首のこりと耳鳴りとは関連性があるように感じています。
顎が痛む
ちょうど耳の前の部分が痛むことが多いように思います。ツボとしては聴会というツボにあたりますが、ここに著名に圧痛が出ることが多いです。痛むのと同時に治療点にもなります。
耳が痛む
耳がツーンとした感じになったり、耳の穴の中が痛むような感覚がする方が多いです。
耳がつまる
耳鳴りの随伴症状ではありますが、耳鳴りになるちょっと前からトンネルに入った時と同じような感覚に頻繁になる方が多くおられます。それを放置していたら、ある時から耳鳴りが出るようになったり、なんとなく耳の聞こえが悪くなったと感じ、病院に行ったら突発性難聴と診断された方もおられます。
短時間の一過性の耳鳴りが起こる
だいたい30秒から1分程度でおさまるピーという耳鳴りが頻繁に起こることが多いです。あるときその耳鳴りが止まなくなったといってこられる患者さんがおられます。
一般の方の約7割がこのような短時間の耳鳴りを経験していますが、頻繁に起こるようになったら注意が必要です。
耳鳴りの前兆によく出る症状が出てきたら
以上にあげられるのが、耳鳴りが起こる前に出てくる前兆のような症状になりますが、このような症状が出てきたら、休養や睡眠をよくとる必要があります。また、首や肩のこりを強く感じている人は肩こりや首こりをとるために首や肩のストレッチや運動をする必要があるでしょう。マッサージや鍼灸も非常に効果的です。
とくに耳鳴りは一度出てしまうと、耳鼻科でも鍼灸でも完治させるのが難しいものになってくるので、未然に防げるのであれば、それに越したことはありません。
とくに耳が痛い、首や肩、あごが痛い、耳がつまるといった症状は当院で施術をした場合、症状が出だしてから1,2週間程度で来院された患者さんは2回から3回程度の施術でおさまることが多く、いかに症状が軽い間に対処できるかが鍵であると個人的には感じています。
ちょっとでもこのような不調を感じたら、体からのメッセージと受け取り、休養をとったり対処するようにするのがよいでしょう。
耳鳴りに対する鍼灸治療
難聴・耳鳴りに関しては東洋医学的なアプローチを主体とします。
耳は全身の陽気が集まる頭部に位置し、聴覚を主る精巧な器官です。耳の機能は多くの臓腑・経絡と関係し、生体の気血津液の循環・代謝とも密接に関与しています。
耳の病変は耳の機能を支配するとともに、みみに影響を及ぼす臓腑・経絡の失調に反映します。
耳と関連の深い臓腑・経絡
耳と関係の深い臓腑・経絡は次の通りです。
腎
腎は耳に開竅します。腎の精気は上昇し、耳に通じます。
腎精の虚損により、耳の栄養を失います。
心
心に属する経絡は耳に絡みます。心の気血が耳に供給されます。
心血不足により耳の栄養を失います。
肝
肝に属する経絡は耳に絡みます。肝の経気が耳を通ります。
肝気鬱滞、肝陽上亢により耳竅を失います。
胆
足の少陽胆経が耳の後ろを巡り、耳の中と耳の前に分布します。
熱上炎により耳竅を失います。
脾
気血生化の源。水穀を運化して耳竅を滋養します。
脾虚または痰湿により耳竅を失います。
肺
肺経の結絡が耳の中にあり、聴覚を主ります。
外邪犯肺により耳竅を失います。
三焦
手の少陽三焦経が耳の周囲に分布しています。
邪気が三焦に入ったり、経脈が不通になることで耳竅を失います。
耳鳴り、難聴の弁証
耳鳴りと難聴を弁証するときの注意点としては、症状に応じて虚実を弁別することです。
実証
六淫の邪気の外感あるいは内臓機能の失調によって、火鬱、痰、気滞、瘀血などが生じて耳竅に影響を及ぼします。
虚証
心・脾・腎などの気血の虚損によって引き起こされます。
肝火上炎
ストレス・情緒不安定によって引き起こされる耳鳴り、難聴です。
典型的にめまい、頭痛、顔面紅潮、充血、イライラ、胸脇苦満、などの症状があります。
痰火
耳の詰まった感じが著しく、頭重感、体が重くだるい、せきや痰、などの症状があります。
気滞血瘀
耳鳴り、難聴の発病後の進展が早く、数時間・数日以内に片側または両側の耳に風音のような耳鳴り・難聴が現れます。
虚証
脾胃虚弱
疲れた時に耳鳴り・難聴症状が増悪します。脱力感、食欲減退、お腹が張るといった症状が見られます。
腎精虚損
耳鳴りが昼夜関係なく続くことが多いです。特に夜にひどくなります。聴力は次第に減退していきます。足腰のだるさ、めまい、手足の火照り、などがみられます。
耳鳴り・難聴の治療は上記の弁証をもとに最も適したツボを選び鍼灸治療をしていきます。